運動で乳がんのリスク低下(朝日新聞記事転載)

坪野吉孝 《東北大教授》
散歩にはまだ寒い季節だが、ウオーキングなどの運動で、閉経後の乳がんのリスクが下がるという論文が、内科学アーカイブスに昨年10月掲載された。

米国の閉経した女性看護師9万5396人を2006年まで20年間追跡した。ふだんの運動について2~4年ごとに質問票で調べ、ウオーキング、ジョギング、水泳、テニスなどを週何時間するか尋ねた。追跡期間中に4782例の乳がんの発症を確認した。

その結果、普通の速度のウオーキングに換算して週1~2.9時間に相当する量の運動をしている人が乳がんになるリスクは、1時間未満の人の0.98倍だった。3~5.9時間だと0.92倍、6~8.9時間で0.88倍、9時間以上で0.85倍だった。つまり、運動時間が長くなるほどリスクが下がるという結果だった。

閉経した時点の運動量が普通の速度のウオーキング換算で週3時間未満の人が、その後、運動量を増やした場合と増やさない場合も調べた。週3時間以上に増やすと、増やさない場合に比べて乳がんリスクが0.90倍に下がった。


世界がん研究基金などは07年、多数の文献の総合評価に基づき、閉経後乳がんのリスクが運動で下がるのは「おそらく確実」と判定した。今回の研究は、大規模なデータでさらに分析を進め、閉経時に運動不足の女性でも、その後に運動量を増やせばリスクの低下を期待できる可能性を明らかにした点などに意義があるだろう。

女性ホルモンのエストロゲンは乳腺細胞の増殖を促進して乳がんリスクを上げる。運動をするとエストロゲンの血中濃度が下がるので乳がんの予防につながると、論文の著者らは考えている。

ちなみに、普通の速度での週9時間のウオーキングは、早足での週7時間(1日1時間)のウオーキングに相当する。毎日それだけ歩くのは容易ではない。だが、特別な激しい運動でなくとも乳がん予防が期待できる可能性を示した点も重要だろう。

2011年2月21日付朝日新聞夕刊から

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